政治学講義㉓:(4)政治家と官僚③政策形成過程・・Ⅰ | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 国会議員のことを、英語でlawmakerという。つまり、法律を作る人という意味である。立法府という言葉も、法律を作る場所という意味である。

 立法、行政、司法の三権分立が明確なアメリカの議会に行くと、このことを再認識させられる。法律は議員が作る。そこで、厳しい排ガス規制を決めたマスキー法(1970年)のように、提案した議員の名前が冠されることになる。

 アメリカの議員には、法案を作成するために必要な多くのスタッフがおり、彼らが議員の立法活動を支えている。

 日本の場合、政府(内閣)提出法案と議員提出法案の数を比べると、前者のほうが圧倒的に多い。後者は、「がん対策基本法」(2006年)のように、政党の縛りを解き、個々の議員が自らの哲学に基づいて判断する場合などが多い。

 私が厚労大臣のときに取り組んだ薬害肝炎訴訟は、2007年末に解決したが、最終的には2008年1月11日に議員立法の肝炎救済法が参議院本会議で成立することによって決着した。

 因みに、フランスでは、政府提出法案をprojet de loi と言い、議員提出法案をproposition de loi と呼ぶ。

 日本国憲法も、国会が立法府であり、予算と条約以外の法律案は国会議員が提案することを前提としている。憲法73条は「内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ」と規定し、その3項目目に条約を5項目目に予算の規定を置いている。法律案を提出するという明文の規定はない。

 1983年、インタビューで田中角栄元首相は次のように語っている。

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 行政府は外交、予算などの専権案件以外は立法府に立法を委ねるべきです。しかし立法府が立法をやるといっても今は全部できない。歴史が浅く、政党にその力がないからだ。だから、「本来、我々が責任を持って法案を提出すべきですが、当分の間は政府立法をやって下さい」ということになる。幸い行政に議案を提出することもできるという除外規定が憲法にあるから、それをもとに政府に法案作成と提出を依頼することになるわけだ。(日本経済新聞社編『自民党政調会』1983年、195p)

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 このインタビューから35年が経つが、その後、状況が大きく変わったわけではない。なお、田中の発言のうち、「除外規定」については、憲法72条で「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し」とあることを指していると思われる。しかし、「議案」の中に法律案が含まれるかどうかは、憲法学者の間でも議論がある。ただし、内閣法では、5条で内閣法律案の提出は認められている。

 私が事務局を担当した自民党の新憲法起草委員会(2005年)でも、法律案の提出権について議論された。法律案の提出権は国会議員に限定し、内閣の提案は国務大臣又は副大臣が内閣の承認を得て提出者となる議員提出法案とすべきであるという意見もあった。この案は、憲法が本来措定した立法者の定義に忠実な考え方である。