[東京 5日 ロイター] 2012年の国内景気は復興需要を支えに堅調な動き──。国内の主要企業トップによる年頭コメントでは、先行き懸念よりも回復期待が目立ち、世界景気についても米国などの政権交代に伴う景気刺激策の出動で年後半にかけ緩やかに拡大するとの予想が多かった。最大のリスク要因は「欧州債務問題の行方」との見方で一致しており、欧州の景気悪化がアジアにも波及する最悪のシナリオに備えるべきとの慎重な発言もあった。為替については円高が反転するとの見方はなく、製造業では海外展開の加速を優先課題としてあげている。

ロイターは5日、都内で開かれた日本経団連など経済3団体による新年祝賀パーティー、日本鉄鋼連盟による新年賀詞交歓会、自動車4団体による新春賀詞交歓会の会場で、2012年の景気・為替見通し、リスク要因、経営の優先課題などについて企業トップに聞いた。

主な発言内容は以下の通り。

<ソニー<6758.T> 中鉢良治副会長>

今年の日本経済は復興需要が本格化したり、米国経済に薄日が差してくることからすると次第に好転してくると思う。為替の見通しはよくわからないが、対応については、ドルは長期的に取り組んで(年間の営業利益に対する影響をゼロに抑えるまで)持ってきたので、それ以外のユーロや新興国通貨のリスクをどうとるかがこれからの課題になってくる。

昨年は、東日本大震災で仙台工場が被災し、ネットへの不正アクセスの攻撃を受け、欧州の信用不安で需要が落ち込んで、タイ洪水で工場が被災した。ソニーにとっては、あらゆる災難が集中的に来た年と言える。今年はこれほど悪いことが続くこともないだろうから、1つ1つ乗り越えて改善したい。

エレクトロニクス業界全体では、環境や医療の領域にコア技術を使うことで新しい産業を作ろうということで取り組んでいるので、今年はそれが結実してくる年ではないか。

<東芝<6502.T> 佐々木則夫社長>

今年の日本経済の先行きは、まだまだ外部環境が荒れていて、外部環境次第というところもある。日本では復興需要、世界では新興国需要に支えられることになるだろう。欧州全体の協調が取られれば、日本国内は復興需要で比較的なんとかなる。だが、逆にソブリンリスクで成長を妨げられる懸念がある。ソブリンリスクが具体化した時に新興国需要が落ち込んで共倒れになってしまっては困る。国際的な協調が求められる。

ソブリンリスクがどうなるかによって変わってくるが、それほど影響が大きくないという話になれば、半年後の日経平均の水準は8500─9500円くらいか。慣れてきたとはいえ、円高は緩和してもらいたい。半年後の為替相場は1ドル=70─80円、1ユーロ=95─105円の間くらいか。政府・日銀による為替介入そのものはカンフル剤としては非常に有効だが、長期的には必ずしも有効でない部分もある。金融緩和も含めて全体的な長期の流れでやっていくべきだ。

消費税引き上げは正しいと思うが、上げる時期が大切。例えば、去年が景気が落ちたこともあり、今年が1.5─2%まで成長できて、その延長線上に13年度があるとすれば、その消費マインドを冷やさない時期、逆にうまく成長路線に乗れたと思ったときが一番、機としては熟している。その景気とのバランスをみて上げてほしい。

<アサヒグループホールディングス<2502.T> 荻田伍会長>

今年の日本経済は良くなると思う。復興もあり、今年後半からは回復に入る。世界経済との連関が強くなっているが、選挙の年で、各国が内向きになり、景気に手を打ってくる。世界経済もそれほど悪くならないとみている。

為替は、願わくばもう少し円安方向が良いが、今の状況の中でどのように企業努力をするかが大事。懸念材料としては欧州の動向だ。欧州が回復してくれば米国も良くなるし、欧州に依存している中国も良くなる。

M&Aには時間がかかる。経営としては内需が一番肝心。国内の基盤強化をしっかりとしたうえで、海外展開に成長を求めていく。

日本が抱える最大の問題は財政の健全化と将来不安。税と社会保障の改革として、消費増税を含めて取り組むことには基本的に賛成だ。

<コマツ<6301.T> 坂根正弘会長>

今年の日本経済は、強いと見る。年後半には、復興が具体化、本格化する。欧州経済の行方にかかわらず、日本には(国内で)お金が必要な部分がある。新興国のバブルがはじければ、日米に資金が流れるのではないか。

消費税は上げないと、国債が暴落しかねない。(ドル/円が)50─60円になることより、200円になることを心配した方がいい。成長(戦略)もコスト(削減)も全部やると宣言すれば、世界から評価される。スケジュールを示してほしい。

<セブン&アイ・ホールディングス<3382.T> 鈴木敏文会長・最高経営責任者(CEO)>

世界経済、日本経済ともにかつて経験したことのない「変化の時代」に入った。「変化の時代」は「チャンスの時代」。積極的に新しいことに挑戦することで無限の可能性が広がる。

円高ではあるが、小売りで考えると、国内にチャンスがたくさんある。セブン―イレブンは1350店の出店を考えている。そごう・西武も新しい商品を積極的に作って店頭に出す。イトーヨーカ堂も新しいタイプの店舗を出すことを考えている。

消費税増税は、現在のようなデフレの状況下では時期尚早。デフレ脱却が第一。ここで消費税が上がれば消費を控え、経済の足を引っ張る。税収が落ち込む結果になる。国家財政の視点からは、いずれは引き上げが避けられないことは理解できるが、問題はそのタイミングと手順。ある程度の景気回復が確認できた時がその時期。その間に行財政改革をしっかり実行し、税負担を支える多くの国民が納得する環境を整備することが必要だと思う。

このまま政府が手を打たなければデフレが続く。政府・日銀が手を打つことが大切だ。円高にも手が打たれていない。「空洞化」は円高だけが要因ではない。経済合理を追求する企業行動の必然であり、インセンティブ等日本に存在する合理を提供することが必要だ。

<ローソン<2651.T> 新浪剛史社長・最高経営責任者(CEO)>

今年の日本経済は3%程度伸びると思っている。昨年がひど過ぎたほか、復興需要やオリンピック前の白物家電需要が出てくる。夏のオリンピック付近から、踊り場を脱却するとみている。ただし、欧州が変にならないという条件付きだ。欧州については、ECBが最終的には国債を買い支え、何とか乗り切るのではないかとみている。仮に各国が自国通貨になってしまうと、独のマルクは相当切り上げになってしまう。これには耐えられないため、(国債を)買い支えることが独には得策だろう。米国は選挙前に景気を良くするだろうし、中国も、新しいリーダーを迎えるにあたって、成長を大きく落とすことはないだろう。

懸念材料は、世界経済よりも、各国のリーダーの交代が何をもたらすかだ。リーダーが変わると、新しいことをやりたがる。これは予想が付かない。

中国では一層出店を強化し、コミットメントを強めていく。インドネシアは安定しており、出店を拡大する。インドは規制緩和で世界に門戸を開いており、関心を持って見ていく。

国内外でM&Aのチャンスがあればどんどんやっていきたい。コンビニ業界で一気に再編が進むことはないが、小規模のところが、少しずつ再編に入っていく年になる。海外では、アジアを中心にやっていきたいが、米国も可能性がある。米国経済は厳しい状況にあるが、人口も増えており、中長期的にはカバーしなければならない。日本のサービス産業の中で、世界に冠たる産業はコンビニだ。この仕組みを世界に輸出していきたい。

今後、コンビニは店舗というリアルと、Eコマースをはじめとしたバーチャルの融合により、消費者の便利さをより追求する動きが出てくる。これは新しい日本ならではのモデルになる。

<新日本製鉄<5401.T> 宗岡正二社長>

世界の景気は春先までは今の状況が続くだろう。欧州債務問題がどう片付くかが最大の懸念要因。米国は一進一退であまり変わらないだろう。各国で政権が代わっていくなかで景気刺激策も打ち出されるため、悪い方向には行かないだろう。円は日本のファンダメンタルズとかけ離れた高い水準となっており、欧州問題が解決してくれば年末までに今より円安方向に戻るだろう。ただ円高の傾向は続きそう。円高は海外投資を行ううえで1つの大きな道具になる。また、円高下では海外での生産・供給体制を整えることが課題となる。

今年の経営のキーワードは住友金属工業<5405.T>との「統合」で、計画通り統合を実現し、シナジー効果をきちんとみせていくことが重要。同時並行する形で海外体制の整備を進める。両社の海外事業計画のなかでシャッフルして絞るところや並列で進めるところなどを判断し、スピードアップしていく。

欧米のイランに対する制裁については、中東の地政学的リスクを示すもので、原油価格に大きな影響を与えかねないため心配している。原油価格は100ドルを超えるようになると問題。安定が望ましい。

消費税は当然上げるべきだ。中福祉を求めるには中負担もあるはず。

<JFEホールディングス<5411.T>傘下のJFEスチール 林田英治社長>

世界景気については、すぐに欧州情勢が安定し、アジア経済が巡航速度に戻ることはなさそうだ。欧州も紆余曲折があるだろう。米国もそれほど強くない。アジアに潜在的成長力があるため、年後半に巡航速度に戻ることを期待したいが、経営者としては最悪のシナリオにも備えるべきだ。欧州の経済減速がアジアにも波及してくるとかなり深刻な状況を招くこともあるためだ。リーマンショック以降、日本の製造業では変化のスピードと幅が大きくなっている。ちょっと悪くなると早くブレーキを踏むし、いいと思えばすぐにアクセルを踏む。そういうスピードに対応できる経営が短期的には重要になる。中期的には最悪の事態も想定して準備していくべきだ。

今年の年末の為替水準はわからないが、今のままならユーロが円に対し強くなる要素はない。引き続き円高への力は働く。業績も非常に厳しい。昨年秋に出した見通しもよくないが、もっと悲観的なことも経営者としては考えないといけない。今年の課題としては、何があっても海外に出て行くこと。それしかない。

<トヨタ自動車<7203.T> 豊田章男社長>

今年の世界経済はまだまだ見通せるほどクリアな条件はそろってないと思うが、政権交代の年は普通は景気が上向く。今年、中国とアメリカが同時に選挙をむかえるという意味では20年に一度の好景気が来てもおかしくない。今年は過去最高の販売台数目標を出したが、達成できるかというよりも、私はチャレンジングな目標をみんなで設定し、たとえそれが95%で未達成になっても、それに対してのプロセスが大事だと思っている。いずれにしても台数より我々としては一人一人の顧客、一台一台の積み重ねが大事だと思っている。

去年は非常に大変な年だった。2012年になって、前を向いて頑張ろうじゃないかということで今年をむかえられた人は私ひとりではないと思う。まず今年は平穏な一年であって、現場の努力が結果として表れるような年にし、最後には笑顔が出てくるような年にできるよう頑張っていきたい。昨年から「六重苦」といっているが、輸出企業にとってつらいのは円高だ。年央の為替水準は分からない。現実論として無理かもしれないが、期待値は(1ドル)90円。

<日産自動車<7201.T> 志賀俊之最高執行責任者(COO)>

世界経済のなかでは欧州が一番心配だ。欧州はEUが生まれた意義を再確認し、今回の通貨危機でEUがばらけないように再び団結してほしい。私はEUの国々の人たちにはそれだけの賢明さがあると思う。経済そのものがおかしくなっているのではなく、信用を取り戻せればユーロも戻ってくる。そうすると新興国への波及というところも落ち着いてくる。

米国については昨年12月の販売実績は結構良かった。このペースを守ってもらえれば期待ができる。欧米が落ち着き、日本がしっかり内需を喚起して世界の足を引っ張らないようにできれば、いい方向に向かうのではないか。

<ホンダ<7267.T> 伊東孝紳社長>

悪いことはすべて(去年の)12月31日で終わりにして、今年は飛躍の始まりの年にしたい。米国やメキシコ、アジアの方もこれからますます力を入れていく。日本では軽自動車の商品を増やし、確固たる地位を築きたい。最大のリスクは昨年味わってしまったがサプライチェーンだ。何かあったときにそれがビジネスとして世界中に一気に広がるが、昨年はそれを2回も味わった。これからもありうることなので、その影響をいかに最小化していくかが大事だ。為替の問題は以前から続いているものであり、いまさらリスクと言ってもしょうがない。

<マツダ<7261.T> 山内孝社長>

円高は早い段階の是正を望む。国内はエコカー補助金の復活やエコカー減税の延長などの効果で、年間100万台に近いような需要がでると思う。政府の支援がある時に需要を盛り上げ、それが切れた時には、いい商品を出して自力でやっていく。今年の課題は、発売する新型スポーツ多目的車(SUV)「CX─5」をグローバルで14万台以上販売させること、円高への対応力を上げること、新興国への取り組みを前進させることだ。特にメキシコは工場建設に着手しているので頑張りたい。

<第一生命保険<8750.T> 渡邉光一郎社長>

国内の復興需要やアジアパシフィックの成長など、まだまだ政策的にやっていけるところある。悲観論がただよっているように嵐の中のスタートであることは間違いないが、日本企業は、必ずこの嵐を乗り越えていく力を持っている。我々は昇竜の年にふさわしい政策を打ち、竜頭蛇尾ではなく、竜頭竜尾の年にしていく。

アジアは、既存進出先のバリューアップの年になると思う。それから中国始め、これから参入する必要のあるところはしっかり検討を進める年。中国は今年、重要な年になる。われわれが得意としているのは保障とか第3分野といわれる医療、介護。貯蓄分野で欧米の生保がすでに進出した先でも、M&Aを通じて成長を獲得することは可能だ。

<東京海上ホールディングス<8766.T> 隅修三社長>

今年の日本経済は、ヨーロッパの経済が安定するか、あるいは大混乱するかで大きく影響受ける。ただ、ヨーロッパが安定すれば、日本の成長は高まるとみている。あれだけの予算がついているため、きちんと実行してくれれば、国内では復興事業が具体化するため、成長につながる。

M&Aは常に見ており、われわれのビジネスにフィットする企業があれば提案したい。M&Aの予算枠は特に決めていない。その会社がわれわれのグループに入ることが更なる成長につながるかどうか、これがすべてだ。為替が高いから、安いからやるという発想はない。具体的に何も言うことはできないが、規模の大小にかかわらず、いろいろ検討している。

<大和証券グループ本社<8601.T> 日比野隆司社長>

今年懸念されるリスクは、海外情勢の反映で投資マインドが冷え込み、リスクオフのマインドが世界的に長期化することだろう。ただ、欧州の危機は解決できない問題ではないと思う。ラストミニッツまでもたつくことを繰り返しながら、という展開になるだろうが、それなりの落ち着きをみせてくれると期待している。従って、ビジネス環境は年前半より後半の方がいいだろう。

円高予想の見方が多いが、ドル円のレンジ予想は1ドル75─80円台後半とみている。マーケット関係者の発想としては(大勢を占める)円高予想にはならないのではないか、という思いがあるのと、為替需給で考えると、貿易収支の赤字が恒常化しかねない状況にあり、資本の動きでみても、日本企業の海外M&Aが増え外貨買いの要因になる流れがある点が挙げられる。

一方、国内では消費税引き上げの景気への影響を懸念する声があるが、消費税引き上げは、必ずしも消費にブレーキになるばかりではないと考える。駆け込み需要も見込めるだろう。北欧のように消費税が高い所で消費が沈滞しているかと言えばそうではないし、日本では逆に消費税のレベルが諸外国に比べて相対的に低いが、それが消費に回るのではなく貯金に走らせている。高福祉低負担は持続不可能なので、是正しないとならない。

<日揮<1963.T> 重久吉弘グループ代表>

今年は米国のシェールガス革命の先行きに注目している。米国でシェールガスの開発が進めば、自国で生産し、輸出ができるようになる。世界景気については、欧州がもう少し落ち続けるだろうが、米国でこれらの資源開発が立ち上がってくれば景気にも好影響が出てきそうだ。

日揮は、新興国の成長で拡大しているエネルギーニーズや社会インフラニーズに対応するため、事業を拡大しており、今年もこれを続ける。為替の先行きはわからないが、レートは上下するので合わせていくしかない。日本企業は国内にこもらず、円高を乗り越える力を持たないといけない。

今年の最大リスク要因は欧州。日揮の事業に直接的な影響はないが、欧州の購買力が落ちると産油国や資源国、中国やインドの欧州向けマーケットが縮小し、これらの国にモノが売れなくなるという間接的な影響が出てくる可能性はある。

<三菱重工業<7011.T> 大宮英明社長>

今年は視界不良で、先が見通しにくい。ユーロ危機の先行きについてもよくわからないが、世界の有力な国々が危機回避に向け一生懸命やっているので、あまりひどいことにはならないと思っている。ただ新興国のプロジェクトで遅延やファイナンスが困難になるなど影響が出てきているようなので、欧州だけでなく、他の地域への影響も注視していきたい。

消費税については、増税だけでなく、歳出の削減も合わせて行うべきだ。人々に先行きの安心感を与えるのが大切で、漠然とした不安感を解消できれば、国の活力も増す。野田政権は、エネルギー政策や成長戦略だけでなく、全てを包含したパッケージとしての政策の具体案を作り、実現していくことが大事だと思う。

(ロイター日本語ニュース 企業チーム;編集 北松克朗)

*内容を追加して再送します。