「空き地」
僕はただぼんやりとその空き地を眺めていた。前の職場を退職してしまってから、昼間からやる事がなかった。午前中のうちに職業安定所に行ってしまうと、午後からは一日中その空き地を眺めているということもあった。なぜその光景に惹きつけられたのかは今となってはよく分からない。僕はただその空き地の光景を眺めて時間を無駄にし続けていた。
やけに猫の多い場所だなと思った。僕が通い始めてからも、日を追うごとに猫の数はどんどんと増えていった。野良猫から飼い猫に至るまで種類も様々だった。誰かが餌付けをしているのだろうと思ったが、ついにその人物の姿を見ることはなかった。
ある日、先客が居た。僕がいつも通り職業安定所からの帰りにその空き地の前に行くと、その少女が居たのだ。美しい少女だった。肩甲骨の辺りまである長い豊かな黒髪で、白いワンピースを着ていた。その白さは僕がこれまで目にして来たどの白よりも白かった。猫はざっと20匹近くは居ただろうか。皆一様にその少女の足元に集まって来ていた。その少女はそんな猫たちを一匹ずつ抱き上げると自分の顔の前まで持っていき、目と目を合わせた。そのほんの数秒のうちに猫はまるで生気を吸い取られたかの様にぼんやりとして、少女に放されてからしばらくはその場に座り込んでしまった。
僕はその奇異な光景を食い入るように眺めていた。やがて彼女は僕の方を見た。その俗世を超越した美しい容貌に圧倒され僕はその場を立ち去った。一度も後ろを振り返らなかった。
それからしばらくして僕は仕事が決まりその空き地を見に行くことは無くなっていた。まるで憑き物が落ちたかのように、その空き地を見たいと言う気持ちが湧かなくなっていたのだ。今でもあの空き地には猫が集まっているのだろうか?そして猫たちはあの美しい少女に生気を吸い取ら続けているのだろうか?僕にあの空き地に行く気がない以上、今となってはそれは分からないことだった。