海辺の光景 | shingo722のブログ

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 「海辺の景色」
 
 トンネルを抜けるとそこは海だった。キラキラとした水面が目に眩しく、数羽のカモメがのんびりとした鳴き声を上げながら上空を飛んでいた。
「目が痛くなりそうだね」
 僕は助手席に乗る甥に声を掛けた。
「うん」
 彼が目を細めて頷くのがルームミラー越しに見えた。そしてそれは彼がこの2時間ほどのドライブの中で発した数少ない音声のうちの1つだった。僕たちは海岸近くのコインパーキングに車を停めると、人影もまばらな9月の海岸を2人で少し歩いた。
「学校には行く気はないの?」
 僕は何気ないフリをして聞いてみた。
「あんなところ行くもんじゃないよ」
 その妙に大人びた口調が可笑しくて僕は思わず吹き出した。
「そう」
「叔父さんはどう思う?」
「そうだな、叔父さんもどちらかと言えば学校は好きじゃなかったよ」
「そう」
 彼はそこからひとしきり遠くの水平線の方を眺めていた。あるいは口数が少ないのは僕に似たのかも知れない。昔から活発だった兄貴とはそりが合わなかった。
「思うんだけど」
 僕はしばらくしてから言った。
「無理に学校には行かなくていいんじゃないかな」
「え?」
 彼は驚いた顔をして僕の方を見た。
「何とかなるもんだよ、人生ってさ。今の時代は特にね。学校に行ってなかった偉い人だって沢山いるんだよ」
「例えば?」
「エジソンとか、坂本竜馬とか…」
「昔の人ばっかりだね」
 彼がそう言って笑ったので僕も釣られて笑った。2人で声を上げて笑ったのは彼がもっと幼かった頃以来だった。そしてその、海面で乱反射する太陽光で全てが眩んでしまいそうな光景は、いつまでも僕の心に残り続けた。