気配 | shingo722のブログ

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 「気配」
 
 気配は狡猾なカビの様にジワジワと音もなく、しかし確実に僕の脳内に忍び込んで来ていた。そして気がつくと身動きも出来ないほどに僕の身体中を神経の末端、指先に至るまで捕らえてしまった。ヤツらはすぐそこまで来ている。
 僕は組織を抜けて以来、地方の都市を転々として慎ましく暮らして来た。始めのうちそれで全てが上手くいくと思えた。しかし一つの都市で暮らし始め、しばらく日が経つと僕はヤツらの気配を背後にひしひしと感じた。たばこ屋の店先で、コインランドリーの行き帰りに、部屋でじっとしている時でさえ、誰かに見られているというあのじっとりとした嫌な感触が僕を蝕んだ。そして僕は再び引っ越すことになる。
 そもそも僕の様な小心者が組織の秘密をベラベラと人に喋ることはないし、僕が抜けたところで組織は痛くも痒くも無いハズだった。にも関わらず、なぜこんなに僕の事を付け狙うのだろう?僕は夜道でまた気配を感じて足を早めた。ヤツらが来ている!逃げなくては。僕は曲がりくねった通りを抜けヤツらを撒こうとするうち、行き止まりの壁にぶち当たった。僕は観念して後ろを振り向く。するとそこには黒猫が一匹僕を見ているだけだった。こんなハズは無い、ヤツらは確実に来ているのだ。どこにいる?僕は気が動転し、はち切れそうな心臓を抱えたまま、壁を背にしてズルズルとしゃがみ込んでしまった。どこから見ている?僕は姿の見えない敵に怯え続けていた。