「マナー」
「本当に信じられない」
彼女は言った。
「だってその男もう31よ?年収は700万を超えてるって本人も言っているのよ?なのに私にも食事代を出させるなんて」
彼女は心底信じられないという表情で、怒りと驚きと呆れが入り混じったようなため息を吐いた。
「女はデートに行くための服装からメイク、アクセサリー、日頃の自分磨きのエステからジムからサウナからホットヨガから…(以下筆者略)とにかくお金が掛かってるんだから」
彼女はそこでグラスの水を一息に飲み干すとガツンと音を立ててそれをテーブルに置いた。他の何人かの客がチラチラとこちらを見ていたが彼女は意に介さないようだった。
「男としてのマナーがなってないのよ」
彼女は憤懣やる方なしといった様子でカバンからコンパクトを取り出してメイクを直し始めた。
「マナーね」
僕はそんな彼女の様子を見ながら言った。そしてこっそりとテーブルの下で今日の食事を含めたデート代の残金を確認した。
「はぁ、どこかに金持ちで優しいイケメンはいないかしら」
「高身長の?」
「イケメンに高身長は含まれてるでしょ」
彼女はそんなことも分からないのかといった顔で僕を見た。
一般論を振りかざすわけじゃないが、デートの最中に他の男の話を持ち出さないのもマナーの1つじゃないのかな、と僕は心の中で小さく呟いた。