日曜日の朝に | shingo722のブログ

shingo722のブログ

ブログの説明を入力します。

 「日曜日の朝に」
 
 それは見事に日曜日の朝的な状況だった。柔らかな朝の陽の光、心地良くそよぐ風、小鳥のさえずり、教会の鐘の音、公園のベンチでの恋人同士の語らい…そんな何もかもが無数の針となって僕の暗い心を刺した。そう、全ては受け取る側の心のありよう次第なのだ。どんなに美しい絵も、いや、その絵が美しく素晴らしければ素晴らしいほど、暗いものの心を焼く業火となるのだ。
 私は苦悩と絶望の表情を浮かべたまま恋人同士の語らうベンチの前を横切り朝の陽の光に背を向け、小鳥のさえずりや教会の鐘の音から耳を塞ぎ、そよ風に身を裂かれながら公園をあても無くヨタヨタと歩き続けた。するともう暖かい気候だというのにトレンチコートのボタンを首の辺りまでキッチリと閉め帽子を被った男が声を掛けて来た。
「つらいのかい?」
「まあね」
「オイラがその心を軽くしてやろうじゃないか」
「アンタは?」
 私はそこで初めて顔を上げて男の方をハッキリと見た。見ると男は悪魔だった。
「オイラならアンタの悩みを解決してやれそうだがね」
「一体悪魔が私に何をしてくれるというのだ?」
「簡単な話さ、アンタの苦悩を食わしてくれたらいい。悪魔にとって人の苦悩はご馳走だからね」
「そんなことでいいのかい」
「ああ、契約成立だね」
「構わないよ」
 私は全て身を悪魔に委ねた。悪魔は私をその不気味な一対の目でジッと睨んでいたかと思うとスゥッと息を吸い込んだ。するとどんどん私の苦悩が身体から抜けていくのがわかった。心がどんどん軽くなり、次いで身体もみるみる軽くなっていった。
「ありがたい、悪魔も善行を積むことがあるのだな」
 次の瞬間、私の目の前は真っ暗だった。もう陽の光も私の網膜を焼くことは無く、小鳥の声も風のささやきも鼓膜を響かせることは無かった。
「馬鹿な人間だ。苦悩を失っちまえば生きる意味や自我さえも失っちまうってことにどうして気が付かないんだ」
 そう言って嗤う悪魔の声が虚ろに頭の中に響いていた。