深い森の奥で | shingo722のブログ

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 「深い森の奥で」
 
 とても静かな森だった。鳥の声はおろか風が木々を揺らせるざわめきさえも聞こえない。そんな森の奥深く、少し開けた場所に彼女はたたずんでいた。密生した木々はそこだけ生えること無くまるで聖域のような雰囲気をたたえている。眩い陽の光がスポットライトのように差し込んで切り株に腰掛けた彼女を照らしており、その光景は幻想的ですらあった。そこで彼女は一人涙を流していた。誰のために泣いているの?と僕は尋ねる。彼女はそこで初めて僕の存在に気がついたように驚いて顔を上げ、「わからない」と言った。「それが余計に哀しいの」、と。
 僕はそのまま彼女を残してそこを立ち去るべきかどうか少し考えた。しかし結局僕は彼女の傍に佇んだまま、彼女が泣き止むまで肩に手を置いてじっと寄り添うことにした。
 吹き抜ける風が頬を撫でたかと思うと、周りの木々を揺らせ、今までどこにいたのか鳥たちが一斉に羽ばたいて行った。新しい何かが起こりそうな予兆だった。僕は彼女の肩をしっかりと抱き寄せ、これから始まる何かへの不安を少しでも和らげてやりたい、そう強く思った。