貯金箱 | shingo722のブログ

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 「貯金箱」
 
 たとえ当時の僕がどれだけ長い腕を持っていたとしても、彼の背中に触れる事はおろか後ろ姿を捉えることすら出来なかったであろう。それぐらい当時から僕らには、あらゆる意味において大きな差があった。容姿、運動神経、頭の出来に至るまで、僕には彼が完璧に見えた。事実、彼は中学のクラスでの地位をすぐに不動のものとした。
 だからどうして彼が僕を友人の一人として認めてくれたのか、僕には今一つピンと来なかった。僕は当時から運動も勉強も容姿も、下から数えた方が圧倒的に早く、性格もどちらかと言えば卑屈でずるいところがあった。
 彼と話をしていると、自分までどこか高いところに引き上げられたような、不思議な優越感があった。同時に、彼が他の友人と親しく口をきいているのを見ると、激しい嫉妬に襲われ、自分が彼に切り捨てられてしまうのではないかという不安に駆られた。
 ある日彼は教室で美しい造形の陶器の貯金箱を僕にくれた。体育大会での優秀な成績を讃えられて学校から贈られたものだと言う。家に貯金箱はいくつかあるから、そう言って彼は微笑んだ。クラスの皆んな(特に女子)は彼から貯金箱を貰った僕を羨ましがり、彼の優しさを褒め称えた。僕は礼を言って、その貯金箱を通学用のリュックサックに仕舞い込んだ。
 その日の帰り道、人気のない路地裏で僕はその貯金箱を地面に叩きつけて粉々に砕き割った。大きな破片をさらに細かくする為に靴で踏みつけさえした。まるでそれが彼の偉大さの象徴であるかのように。
 もはや原型の無くなったその破片たちを見つかりにくいよう足で払って道の傍にどかしてしまうと僕は夕暮れの街を一人で家に帰った。