完璧な迷宮 | shingo722のブログ

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 「完璧な迷宮」
 
 「完璧な迷宮を想像してみて」
 彼女は言った。
「完璧な迷宮?」
「そう。時間さえもその迷宮的完璧さに飲み込まれてしまったような迷宮。その中では時間はとても歪な流れ方をするの。奥へと進むうちに若返ったり急に年老いたりする。またある部屋の扉を開けるとそこには別の時間のあなたがいるかも知れない」
「まるでシュールレアリズムの小説みたいだな」
 僕は笑いながら言った。
「ええ。でもそれは時としてとても現実的な問題となり得る」
「問題?」
「誰しも日常の中でそのような完璧な迷宮に足を踏み入れてしまう可能性があるという話よ」
「日常の中で?」
 僕はいかにも高価そうな応接間の椅子に深く腰掛けたまま、しばしぼんやりと彼女の頭の上の空間を眺めた。探偵を長くやっているとしばしば裕福そうな依頼人の屋敷に招かれて話を聞く事があるわけだが、彼女にはこれまでのどの主人とも違った、得体の知れない雰囲気があった。
「あなたもいつかそこに足を踏み入れる事になるのかも知れない」
 彼女は煙草の煙を細く吐き出すとコーヒーを一口飲んだ。
「よろしい」
 僕は言った。
「今回のお話が事件という迷宮の入り口となるのかも知れない。しかし僕は臆せず飛び込むことにしましょう。それが探偵という職業に対する僕なりのプライドです」
 屋敷の女主人は僅かに口角を上げて微笑むと灰皿の上で細長い煙草を揉み消した。僕はチラリと時計を見た。14時5分。少し時間の進み方が遅い様な気もしたが気のせいかも知れない。あるいはすでに僕は迷宮に足を踏み入れたのだろうか?彼女の言う完璧な迷宮に。しかしもう後戻りは出来ない。それは依頼を引き受けた時点で覚悟していた事だ。椅子に座り直して僕は顔の前で手を組み、いつもの依頼人の話を聞くポーズを取った。
「詳しい話を聞きましょう」