「目」
彼女はよく人の目を覗き込むようにして話をした。小さな頃よく人の目を見て話しなさいと言われたが(僕はそうすることがとても苦手だったが)、彼女の場合はそんなものではなかった。本当に人の目の奥に、その人の脳裏に渦巻く感情、あるいは情景、そして記憶の全てを読み取ろうとするかのように覗き込んだ。まるで深い井戸の奥に潜む不思議な生き物でも探し求めるかのように。
そんなとき僕はとてもどきまぎと緊張しないわけにはいかなかった。もともと人に目を見られるのが苦手な上に、彼女の瞳はあまりに澄んで、まるで僕自身の身体まで透明に透き通ってしまうかのような、どこか危うい繊細さと無邪気さを兼ね備えていた。
「どうして私と話す時いつも目を逸らすの?」
そんな折、彼女はよくそう尋ねた。
「君が可愛すぎるからだよ」
僕はいつも笑いながらそう答えておいたが、あながちそれは嘘ではなかった。彼女の瞳はあまりに美しく澄んで、長いまつ毛と涙袋の織りなす陰影は絵画的な構図の完璧さで人の心を惹きつけて離さなかった。
「もっとあなたのことが知りたいわ」
僕が笑ったままそれ以上何も言わずにいると、彼女はそう言った。
「もっとこちらを見て」
僕は照れてはにかみながらも、その魅力的な目に惹きつけられるように彼女の方を見ないわけにはいかなかった。さしあたりメデューサに魅入られた人のように石にされることは無いまでも。