「鏡」
鏡のような水面が一面に青空を映し出していた。濃く深い青みをたたえた空は白い雲と絶妙なコントラストを成し、それを湖が映し出すことで青と白の世界を作り出し、僕は一瞬奇妙な浮遊感を覚えた。
「日本にもこんな景色があったのね」
彼女は言った。
「そうだね」
僕はそう言ってから彼女が実に久しぶりに素直な笑顔を見せていることに気がついた。会社を辞めてからここ数日、家に引きこもっていたという彼女を無理矢理ドライブに連れ出したのは僕だった。彼女は湖に向かう途中、一切の笑顔を見せず、言葉数も最小限だった。
その景色が彼女に与えた効果は劇的だった。
「何か新しい世界の扉が開いたような気がする」
彼女はそう言って笑った。僕は実に久し振りに見る彼女の弾けるような笑顔に、初めて彼女に恋した日のことを思い出した。。
「もう一度頑張れそうな気がする」
そう言った彼女の微笑みが遠い日の僕の記憶を映し出していた。