旅館にて | shingo722のブログ

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 「旅館にて」
 
 小さな、しかし美しい松林を抜けた先にその旅館はあった。僕が小ぢんまりとした玄関先で声を掛けるとすぐに奥から女将が出て来た。30半ばといったところの綺麗な人で、苦労からか少しやつれていたが決して品は失っておらず、ハキハキと風呂や夕食の案内をしてくれた。それで僕は非常にこの旅館に好感を持った。民宿に毛が生えた程度の大きさだったが掃除も行き届いており、部屋に入って障子を開けると先ほどの松林が真っ先に目に飛び込んで来た。こうして海と砂浜と松林を込みで一体として見るとその配置は素晴らしく、俳人ならば見事な一句が詠めそうだった。わざわざ遠くまで休みを取って泊まりに来た甲斐というものがあったなと僕は思った。風呂に入ってその夕暮れ時の景色を眺めながら冷や酒を銚子に二本ばかりつけてもらい呑んでいると、いよいよ僕は満足した。ここに「遅くなりました」と女が尋ねて来ると最早言うことは無いのであるが、こればかりはどうしようも無い。それはまたいつかの機会にと自分に言い聞かせて僕は心地良い気分のまま、ぶらぶらと夕食前の散歩に出掛けるのであった。