「工場にて」
彼女はとても丁寧な仕事をした。同じ工場のライン作業とはいえ、仕事をどれだけ丁寧に心掛けてこなすかによって、出来栄えにほんの僅かに差が出る。そしてそれがラインに連なって何人もの作業員を経て蓄積することにより仕上がりにもやはり差は出る。かと言ってそれが規定に引っ掛かる程の違いとは言い難いし、皆んな出来る限り手は抜きたがるものだ。それでも彼女は仕事に妥協をしなかったし、なるべく丁寧に素早く仕事をこなした。きっと彼女の直後のラインで作業する人間はやり易かったに違いない。言うまでもない事だが、僕は彼女に好感を持っていた。
彼女は読書が趣味らしく、僕らはよく仕事終わりに工場に併設された図書館(僕はその条件に釣られてこの職場を選んだ)で顔を合わせた。何度も顔を合わせるにつれ彼女はほんの少し微笑んで僕に会釈してくれるようになった。彼女は詩を読むのが好きらしく、いつも誰かの詩集を小脇に抱えていて、僕はその表紙をちらりと見て話を合わせるために後でこっそりと同じ詩集を読むのが癖になった。
だからといって僕と彼女の関係が著しく進行するといったことは無かった。少なくとも今のところは。
今日も彼女は相変わらず丁寧にライン作業をこなし、僕はそんな様子をチラチラと盗み見たりしている。いつか彼女と肩を並べて仲良く詩について語り合う、そんな日を夢見て。