「職人」
絶え間無い修練の積み重ねによってのみ、技巧は向上する。布を裁断し、張り合わせ、持てる技術の全てを尽くして作品をつくり上げてゆく。師匠や職人仲間からの評判も上々である。僅かな余暇を利用して工房近くの森へ出掛けてゆき、大きな石の上に腰を下ろして川の流れを眺めていると心も洗われるようだった。季節によって植物や生き物たちの様子が変わるのも良い。新たな発見は創造力を刺激してより良い作品づくりに活かされるからだ。そして今日も僕は工房に籠もって作品を作り続け、技術の向上に余念が無い。
しかし、ふと思うことがある。川が流れるのをぼんやりと眺めたり、カエルが葉っぱの上からひょいと流れに飛び込むのを眺めている折に。結局僕の作っている作品はどの様な用途に使うものなのだろう?布を複雑に織り込んだり張り合わせたりはしているものの、僕は結局それが何に使われるものなのか、見当もつかない。幼い頃から職人の家系に育ち、師匠について厳しい技術の指導を受けて来た。しかし、自分の作品が何に使われるものなのか、ついぞ疑問を持った事が無かった。なぜだろう?
それでも僕は今日も作品を作り続ける。師匠が褒めてくれたり職人仲間の羨望の眼差しを受けているうちに、作品の用途などどうでもよくなってしまうのであった。