「足音」
カツーン、カツーンという足音が響いていた。それは真っ暗な空間の階段を上から下へとゆっくりと降りて行った。僕は息を殺してそれを待ち受けている。やがてその足音は僕の潜んでいるすぐ上の階あたりで止まる。どうやらこの非常階段のような場所から、建物内に入るようだった。僕は今度こそ男の顔を確かめることが出来なかったという悔しさと、緊張から解放された安堵感にホッとため息をついた。
しかし、毎夜この階段を上から下へと降りていくその人物は誰なのだろう。僕はほとんど毎日この空間に忍び込んではその謎の人物の正体を突き止めてやろうと密かに胸を高鳴らせていた。噂ではこの建物を調べている秘密組織の人間であるとか、果てはこの場所で亡くなった男の霊であるというオカルトチックなものまで様々な憶測がなされていた。まだ僕はその人物の顔を確かめられずにいたが、ここ数日のうちに足音は確実に僕の隠れている近くまで響いてくるようになっていた。そして明日、ついに男は僕のところまでやって来るのかも知れない。その正体を突き止めたときに僕の身に何が起きるのか。期待と不安の入り混じった気持ちで僕は明日を待つことにした。