「思想犯」
その閉ざされた空間でまず消滅したのは時間の感覚だった。窓のない部屋では外の様子など分かるはずもなく、今が昼なのか夜なのかさえ分からなかった。ただ、日に三度どうやら決まった時間に食事が運ばれてくるので、どうやらそれで一日が経過したらしいということが分かる程度だった。そう、僕は囚われているのだ。
僕は政治的な思想犯であり、国際的なテロ組織の一員であり、真に世界のことを想う革命家だった。僕はある国の機密機関に潜入したところを捕らえられたのだ。しかし、これしきの事で屈するわけにはいかない。僕には世界を変えるという夢があり、使命があるのだから。
今日も白衣の男に尋問を受けるが僕は絶対に口を割る事は無い。仲間を売って自分が助かるぐらいなら死んだ方がマシだ。
「では尋ねるがね」
白衣の男は言った。
「なぜこの建物の奥に忍び込んだ?」
「何度も言っているだろう」
僕は挑戦的に言った。
「この国で良くない動きが進行しつつある。それを食い止めるためだ」
「我々も何度も言っているんだがね」
彼は言った。
「ここは病院で君は患者だ。君がテロ組織の一員だとか、使命を受けて建物の奥に忍び込んだというのは君の妄想に過ぎないんだよ」
彼は僕の目を見て言った。しかし、僕はそんな洗脳や暗示の類には引っかからない。何と言っても僕には世界を救う使命があるのだから。心配なのは仲間からの手紙が入っているファイルだ。あれがヤツらの手に渡ったら大変なことになる。
「ところで君の病室から見つかったこのファイルだがね」
白衣の男はまさにそれを取り出して言った。マズい、すでにファイルはヤツらの手に渡っていた。
「あくまで参考までに聞くのだが、新聞の切り抜きや広告がびっしりとファイルされているのだけれど、これは趣味か何かかね?」