夏の図書室にて | shingo722のブログ

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 「夏の図書室にて」
 
 「何を読んでいるの?」
 不意に背後から声を掛けられて僕は本のページから顔を上げた。彼女は長机の端に座って本を読む僕にぴったりと寄り添うように立ち、好奇心に満ちた目をこちらに向けていた。僕が本の名前を告げると彼女はふーん、と言ったきりしばし頭の中の引き出しを探っているようだったが、やがて諦めたように、「面白そうな本ね」そう明るい声で言った。
 その夏、僕は家に居場所を見つけられずに学校の図書室が解放されているのを幸いにずっとそこに入り浸っていた。彼女はいつも僕を見つけるとぴったりと背後に立ち、「何を読んでいるの?」「どんな話?」「どんな作家が好きなの?」そう質問攻めにした。僕にしたところで本を読むのは好きだったが、半分は暇つぶしみたいなものだったから彼女の話にいちいち付き合ったりしていたのだが、どういうわけか彼女は自分の話というものを一切しなかった。
 夏休みが終わり、学校の授業が始まってからも僕は折を見て図書室に顔を出してはいたのだが、なぜか彼女を見掛けることはなかった。彼女は夏休みが終わりを告げると共にどこかへ消えてしまったのだ。まるで夏休みの図書室にだけ現れる、人懐っこい妖精みたいに。