哀しみとともに | shingo722のブログ

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 「哀しみとともに」
 
 哀しい気持ちはどこからかそっとやって来て僕の心の扉を僅かばかり開けて、身体を滑り込ませるように中に入ると音もなくそっと扉を閉めた。
「やぁ」
 僕は読んでいた小説のページから顔を上げて彼を見た。
「こんにちは」
 彼は恥ずかしそうにこちらを見ながら言った。哀しみはそれ自体は哀しみでありながら恥ずかしいという感情を持ち合わせているのだな、僕はそう思ったのだが話がややこしくなりそうなので黙って彼に椅子に座るよう促し、コーヒーを出してやった。
「結局また来たわけだね」
「どうやらそういうことになるみたいだな」
「まぁそういうものか」
「人生なんてみんなそうじゃないかな。何度も同じ事を繰り返しながら始まる前とあとでほんの少しだけ場所が変わっている」
「あるいは変わっていないかも知れない」
 僕がそう言うと彼はほんの少しだけ微笑んだ。
 哀しみと二人で過ごす時間は静かに流れていった。部屋の中は芳ばしいコーヒーの香りと僕が本をめくる音だけが支配していた。彼は所在なさそうに、そして少し気恥ずかしそうに椅子に座っていた。彼はやがて出て行くことだろう。しかしそれまではほんの少しの間、哀しみと二人きりの時間を過ごすことにした。結局のところそれが僕自身の人生なのだから。