「虚ろな夢」
虚ろな夢は全体として虚ろでありながら、細部においては異様なまでに克明であり、その克明さ故に僕はその夢を見ている間を通して一度たりともそれが夢であることに気が付かなかった。しかし状況は途中のコマの抜けたフィルムのように突然移り変わったり入れ替わったりして飛び飛びになり、僕をひどく不安な気持ちにさせた。幼少期の僕が家の庭で遊んでいて転んでしまい、膝を擦りむいて泣いていたかと思えば、急に大人になった僕の視点に切り替わり、その様子をひどく客観的な視点で眺めているといった具合に、その夢は固定された視点すら欠いていた。
僕は目覚めたとき全身にぐっしょりと汗をかき、ジェットコースターに乗ったあとのような足もとの定まらない浮遊感と僅かな吐き気を感じた。キッチンで冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注ぐ事なく一気に飲み干すと、気持ちを落ち着けるためにテーブルに両手をついて自分に言い聞かせた。「これは自分の人生なのだ」と。そう、これは自分自身の人生なのだ。乗り物に乗っているうちどこかに運ばれるというものでは無い。望むと望まないに関わらず自分自身の足で歩まねばならない。そしてジェットコースターと違い、最初と最後で辿り着く場所は全く異なっているはずだ。おそらく。僕はベッドルームに戻ると服を着替え、一日の新しい一歩を踏み出すことにした。