深夜のスーパーマーケットにて | shingo722のブログ

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 「深夜のスーパーマーケットにて」
 
 深夜のスーパーマーケットに客はまばらだった。いかにも一人暮らしの独身といった感じの男や(かく言う僕もその1人なのだが)、水商売らしき寝巻き同然の格好の痩せた女、ロックミュージシャン風のなりにギターケースを下げた男など、それぞれに社会生活に馴染み切れないものを抱えた人間たちが肩を寄せ合っているコミュニティのような雰囲気がそこにはあった。
 僕が作ってから時間が経ち安くなった弁当のそのまた売れ残りを物色しているところで声を掛けられた。
「ねぇ。ねぇ、お兄さん」
 僕が顔を向けるとそこには痩せこけた年齢のよく分からない、やはり寝巻き同然の格好をした女が僕を見上げていた。
「ねぇお兄さん、少しでいいからお金を貸して欲しいの」
「お金?」
「500円ぐらい貸してもらえたら助かる」
 その年齢のよく分からない、しかしおそらくは20代であろう女は、感情のよく分からない顔で僕の方を見ながら言った。しかしお金を貸してくれと言われても、どう考えても返してもらう見込みは無さそうだった。
「お腹が空いているの」
 僕の心を見透かしたのか否か、女は畳み掛けるように言った。僕はどうしたものか少しの間思案したが、500円ぐらいなら良かろうと恵むような気持ちで500円玉を彼女に差し出した。すると彼女は礼を言うでもなく僕の手から500円玉をひったくると、僕の目の前にあった弁当をサッと取り(僕が買おうか買うまいか悩んでいた弁当だ)真っ直ぐにレジに向かい、さっさと会計を済ませて店を出て行った。僕はポツンと1人弁当の売り場に取り残されたまま、その光景をしばらくの間なす術もなく眺めていた。やがてどうしようもない徒労感と虚無感に襲われビールを2缶だけ買い店を出た。そしてそのうち1缶を歩きながら飲んだ。
 ウチに帰って布団に潜り込むと、目を閉じた暗闇の中にさっきの女の表情の無い顔が浮かんで来た。
「お腹が空いているの」
 彼女は言った。そして僕の手から500円玉を無言でひったくるとそのまま店を出て行った。彼女の手にはいつの間にかビールが2缶握られていた。眠りに落ちる瞬間、あんな女でも男に抱かれることはあるのだろうか?そんなどうしようもない事を僕は考えていた。