「家事」
意識は夢と現実の狭間を彷徨う。気がつくと西日の差し込む部屋の机に突っ伏して僕は寝ていた。ノートには眠気で混濁した意識で書き込んだアイデアが幾何学的な文字で並んでいたが、自分でも解読出来そうになかった。まずいな。僕は思った。妻が帰ってくる時間だ。
帰って来た妻はまずグルリと部屋の中を見渡すと、溜め息をついて掃除機をかけ始めた。
「ごめんね」
僕は謝った。
「気がついたら机で突っ伏して寝ちゃってて、それで家の用事を済ませることが出来なかったんだ」
「いいのよ」
彼女は強張った顔のまま言った。
「ただ少し疲れちゃっただけだから」
彼女は仕事にせよ家事にせよ、予定通りに物事が進行しないと落ち込むし、必要以上に自分を責めるタイプなのだ。たとえそれが人に任せてあった仕事でも、まるで任命責任を全うするかのように最後までやり遂げられるまでは気を抜かない。彼女のような生き方は疲れると思う。だから誰かが支えてあげなければならない。なのに、やれやれ。僕は足を引っ張ってばかりだな。
「これが終わったらすぐに夕ご飯作るわ」
彼女は掃除機を掛けながら言った。
「今日は宅配を頼もう」
彼女は手を止めて僕を見た。
「私の作るご飯じゃ、嫌?」
「そうじゃない。せめて帰って来てからはゆっくりして欲しいんだ。そりゃまぁ、僕が用事を増やしているようなものだけどさ」
彼女は手を止めたまましばらく何かを考えているようだった。
「そうね、今日はゆっくりさせてもらおうかしら」
ようやく表情を緩めた彼女にホッとしながら、僕は宅配のメニューを検討し始めた。そして、なるべく彼女が心穏やかに過ごせるよう気を配ることを、改めて心に誓った。