ケンカ | shingo722のブログ

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 「ケンカ」
 
 開け放たれた窓から海風が入って来て、潮の香りがした。海のない街で育った僕は(そういう人の方が多いのかも知れないが)それがとても新鮮に感じられた。
「とてもいい部屋ね」
 彼女が弾んだ声で言った。
「ひと休みしたらビーチまで行ってみない?」
「構わないよ」
 僕は言った。昨日までのケンカが嘘のように、僕たちの間には爽やかな風が吹き渡っていた。旅行の前日にケンカしてしまったことで、不味いことになりそうだなと僕は密かに不安に思っていたのだった。
「サンダルを持って来ていて正解だったわ」
 彼女はウキウキと靴を履き替え、旅行雑誌をめくりながらエアコンの温度をチェックし、ネイルの具合を確かめていた。女性は色々なことを同時進行でこなすのが本当に上手だな、僕はぼんやりとそんなことを考えた。おそらく夕食を食べる頃には昨日のことなど頭の片隅にも残っていないだろう。僕は安堵していそいそと部屋を出ていく彼女のあとを追いかけて行った。