静けさ | shingo722のブログ

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 「静けさ」
 
 蛇口から落ちる水滴の音で僕は目を覚ました。ピチョン…ピチョンとそれは規則的にシンクに溜まった食器に落ちて水音を立てていた。奇妙に意識に障る音だった。あるいは僕の神経が過敏になっているのかも知れない。しばらくそのままにしておいたが、やがて僕は諦めてベッドを出てキッチンまで降りていくことにした。時計を見ると午前2時だった。
 水道の蛇口をひねって水を止め、冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注いで飲んだ。ふと居間を見ると、ソファで妻が寝ていた。妻は結局、昨日
寝室には上がって来なかった。僕たちは昨日夕食のあと軽い口論になり(原因は忘れてしまった。どのみち些細なことなのだ)、妻は僕から目を背けるようにしてソファに行きテレビを観始めたのだった。
 僕たちは結婚して3年目になる。微妙な時期だった。結婚に伴うゴタゴタとした手続きを乗り越え、夫婦生活も軌道に乗り、お互いそれに慣れ始めていた。子どもはいない。僕たちはまだ若く、自分たちの生活で精一杯で今のところ子どもをつくる必要はないと考えていた。セックス自体、結婚当初と比べて随分と数が減っていた。
 深夜の静まり返った家の中でじっとたたずみ、ソファで眠る妻の顔を眺めているうちに、僕は突然強烈な違和感に襲われた。オレは一体今、何をしているのだろう?妻の顔が急に他人のものに思われてきて、自分は今一つ屋根の下で他人と二人、奇妙な共同生活を送っているのだという意識に苛まれた。僕はキッチンの椅子の背もたれを掴み、その突然の意識の波を必死にやり過ごしていた。しばらくして気持ちが落ち着くと、妻の顔は元通り僕のよく知る顔に戻っていた。自分は妻を愛しているのだろうか?ふとそんな疑念が頭をよぎった。
 僕はタオルケットを持ってきて妻に掛けると、寝室に戻りベッドに潜り込んで目を閉じた。眠りはなかなか訪れてはくれなかった。静けさが奇妙な存在感を持って僕を押しつぶそうとしていた。