「雪」
雪は静かに降り積もって地表を白く覆っていった。まるで昂った感情の表面を薄い膜で覆うように、それは地面に雪化粧を施していった。
あれからもう何度目の冬だろう?秋が深まり冬が訪れる度に僕の感情は鈍く疼いた。思い出したく無くても、凍てついた空気が肌を指すように、目に映る冬景色の全てが彼女に結びついて僕の心を貫いた。僕にとって冬は別れの季節だった。
ベンチに腰掛けて缶コーヒーを飲みながらぼんやりと景色を眺めていると、近くの駅の改札から出て来た集団の中に彼女の姿を探し求めている自分を発見する事があった。
僕はため息をついて立ち上がると、冷えてしまったコーヒーを捨てて空き缶をゴミ箱に放り込んだ。すると、舞い降りた雪が頬に触れて僕は思わず空を見上げた。降り始めた雪はやがてアスファルトや黒い土を覆い尽くしていった。まるで僕の傷付いた心を優しく包み込むように音もなく、静かに。