「才能」
人生に何かを求めるならば、それ相応の見返りを用意しなければならない。ある場合にはそれは時間であったり、あるいはまた自分が身を置く環境であったりする。そして彼の場合、その代償は彼の人生そのものであったというわけだ。
彼は幼い頃から画家になることに文字通り人生を捧げていた。高名な画家について絵を学び、若くして展覧会で入選を果たした。誰もが彼が将来大成することを信じて疑わなかった。彼自身を除いては、ということだが。
華々しい活躍とは裏腹に、彼は徐々に自分自身の作風に対する悩みから精神を病んでいった。彼の精神は、その確かな画力に比べてあまりにも繊細だった。次第に酒量は増え、ついにはその一線を越えることになるまでに、そんなに時間はかからなかった。
彼が創作と過度な期待による重圧に思い悩み、薬物の多量摂取により命を落とすまでの間に取り掛かっていた未完の大作の中に、その確かな才能と濃縮された時間と苦悩を見る事が出来る。どこまでが薬物の影響下で見た光景なのかは分からない。しかしその色使いは確かに彼自身にしか出せないものであり、筆致は重厚である。もし彼が自身の人生においてもっと楽観的であったなら、人はそう言うかも知れない。しかし、その才能が繊細過ぎる神経と表裏一体のものであったのなら、彼の早逝も必然であったと言わざるを得ないのかも知れない。