「ある青年の死」
人が命を断つ理由は様々である。彼の場合で言うならば、人の話に耳を傾け過ぎたということになるかも知れない。
しかし、それは何も彼が誰かにそそのかされて命を断ったとか、追い詰めるような事を言われたとか、そういうことではない。むしろ彼はそのような悪口の類を意に解するような人間ではなかった。言うなれば彼を死に追いやったのは、人の打ち明け話や、よもやま話に含まれるある種の成分、人の意識の中で決して分解される事なく積もり続けるものではなかったかと思われる。
彼は人に何か話をされる時には静かに耳を傾け、相槌を打ち、要点を得た短い質問を返した。当然の結果として人々は彼を捕まえては身の上話などを延々と話続け、彼は辛抱強くそれを聞き続けた。
そして彼は、人生のある瞬間で自ら命を断った。彼は決して人の秘密に関して口を割らなかったし、彼の中に積もり続けた秘密は彼の死と共に永久に葬り去られた。そして皮肉なことに、彼は自分自身の抱える苦悩に関して、決して誰にも打ち明けたり、相談したりすることは無かったのだった。