「欲望」
人生にあまりに多くのものを求め過ぎた結果、何も手に入れる事が出来なかった。中国やら西洋の古典を紐解けばそのような記述はそれこそ星の数ほど出て来る。そしてそれはそのまま僕のことでもあるかも知れない。
「結婚に何を求める?」
親しい友人が尋ねた。深夜のバーで彼も僕も相当に酔っていた。
「幸せな家庭?子供?合法的なセックス?まさかね」
僕はしばらくそれについて考えてみた。
「別に。時期が来たから結婚しただけだよ。僕や、彼女の家の何やかやが重なったんだ」
「よく分からないな」
彼はこめかみを押さえながら言った。
「それじゃあ自分たちの意思なんて無いようなものじゃないか」
自分たちの意思。それは僕に虚空に浮かんだチリのようなものを連想させた。
「必要かな、そんなもの」
「お前の考えることはよくわからないよ」
そう言って彼はハイボールのお代わりを注文した。自分たちの意思。僕は宇宙に浮かぶ巨大な星を思い浮かべた。その巨大過ぎる引力ゆえに最後には消滅し、光さえも貪欲に飲み込むブラックホールと化すような、巨大な欲望のかたまりを。僕は今のところ、目の前の平穏な結婚に満足している。