「ファミリーレストランにて」
店内に無機質な来店を告げる電子音が響き渡る。僕は30分ほど前にこのファミリーレストランに1人で来て仕事の原稿を仕上げようとしている。
店に入って来たのは若いカップルで、何やら不穏な空気を漂わせている。僕は嫌な予感がしたし、嫌な予感というのは往々にしてよく当たる。カップルは僕の近くの席に腰を下ろすと、一言も口を聞くことなく各々注文用紙に記入を済ませる。女の元にはパフェ、男はドリンクバーのみ。仕事を続けながらもカップルのボソボソという声が聞こえて来る。「あの女が」「そういう問題じゃない」「オレの知ったことじゃない」、そういった言葉の断片が嫌がおうにも耳に入って来る。
気が散りながらも何とか原稿を仕上げ、そろそろ店を出ようかとカバンに手を伸ばしかけたとき、そのカップルの女の方がコップの水を男の顔にひっかけた。そしてその飛沫はしっかりと僕の原稿にもかかった。即座に僕はそれが致命的なものかどうかを確認し、まだ大丈夫とみるや、それを抱えて即座に店の外に避難した。後ろではカップルの本格的な痴話喧嘩の音と声が響いていたが、知ったことではない。頼むからそういうことは他に迷惑の掛からないところでやって欲しい。ため息をつきながら僕は仕事場に向かった。