「消せない過去」
もし過去をやり直せたとして、自分ならどうするかと問われたとしても、結局今と同じような人生を歩むことになるだろう。僕はそんなふうに考えている。なぜなら僕自身の根本は学生時代から何一つ変わっていないからだ。そう、なに一つ。
僕の中学生のときの友人に言葉が少し流暢に喋りにくい子がいた。サ行の発音が難しいようで、よくそのことをクラスメイトにからかわれていた。何かがあって授業でその子が発言しなければならないときは、決まって皆んながその事を囃し立てた。
僕はその子と小学校時代からの友人であり、中学校に上がってからも変わらず仲が良かったのだが、皆んなが彼をいじめるようになってからは、そのことを見て見ぬふりをして過ごしていた。
ある日、彼が放課後の教室で泣いているところを見かけた。皆んなの前ではどれだけからかわれても泣く事だけはすまいと決めていたようだったが、放課後ひとりになって、緊張が解けてしまったようだった。結局、僕は忘れ物を取りに教室まで戻ったのだったが、教室に入ることはせずにそのまま家に帰った。そして中学校を卒業して以来彼には会っていない。
もし今どこかでばったり再会したとしても、彼と昔のように仲良く打ち解けることが出来るだろうか?僕自身は当時彼のいじめを見て見ぬふりしていた頃とさして変わっていないし、仮に親しく口をきいたとしても、あのときの記憶が消えることはない。ひとりの友人を見捨てたという記憶を、死ぬまで背負い続けるしかない。