文章を書くこと | shingo722のブログ

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 「文章を書くこと」
 
 呼吸をするように、泉の底から水が湧き出すように、いくらでも澱みなく彼は文章を書くことが出来た。
「僕の頭の中にはね」
 彼は言った。
「書かれたがっている文章がぎっしりと詰め込まれているんだ。僕はそれを文字に移し替える作業を手伝ってあげているだけに過ぎないんだよ」
 彼は僕の小学校からの幼なじみであり、紛れもなく文章を書く天才であった。僕も小説を読んだり、書く真似事をしたりするのは好きだったが、読む量も書く質も彼とは比べ物にならなかった。将来彼の小説なりエッセイなりが世に出る頃には、こぞって出版社は彼の本を出したがり、世間がその稀代の才能に注目するだろう。僕はそう考えていた。しかしそんなことは起こらなかった。
 彼は高校に上がる直前、車に轢かれて死んだ。飲酒運転の車だった。僕が憧れた稀代の才能は世に出る事なく、唐突に何の理由もなく消されてしまった。少なくとも僕にはそう思われた。
 あれから10数年が経ち、今でも僕は小説を書き続けている。自分の中にどれほどの才能があるのか分からないし、それが彼に遠く及ばなかったとしても、書くことを止められずにいる。文章を書く事で自分の中の彼の存在を繋ぎ止めている、そんな気がしている。