「宝物」
さびれた工場跡の瓦礫を潜ると、中庭のようなところに出た。薄暗い廃屋を抜けて来たのだが、そこだけ陽の光が差し込み、すでに背丈が大きく成長した植物たちを柔らかく包み込んで幻想的な雰囲気を作り出していた。森の一角を切り拓いて建てられた工場が再び自然に還ろうとしていた。
「このあたりだよ」
彼は得意げに僕をそこまで案内して来た。自分だけが知っている特別な場所を人に教えるときの少年特有のキラキラとした笑みを満面に浮かべて。
彼は少し芝の薄くなった土の辺りを掘り返すと、中から銀色の丸いアルミ缶のようなものを取り出した。彼が蓋をひらくと中には様々なかたちの石やビー玉、ガラスの破片の様なものが入っていた。
「宝物だね」
僕は彼の気持ちを壊さないように言った。
「分かってくれる?」
彼はそこで初めて弱気な声を出した。
「もちろん、すごく綺麗だね」
彼は再び誇らしい表情を取り戻すと、その中の石ころを一つ僕にくれた。
「友情の証だよ」
「ありがとう」
僕はクラスの隅でいつもいじめられていた彼の、初めて見せる輝くような表情に胸打たれていた。
そのときの石は、今でも僕の書斎の引き出しに大事にしまってある。