「中学生の頃」
初めて恋に落ちた日のことをはっきりと覚えている。僕は中学校2年生で、場所はクラス替え直後の教室だった。そして彼女は新しいクラスになって早々に、いじめの対象になっていた。1年生から引き続き、というべきか。
彼女がどのような経緯でそのようないじめを受けることになったのかは分からない。その日彼女が教室に入って来たとき、すでに彼女の机は見るも無残な姿になっていた。机に落書きをされたり、花瓶を置かれたり、といったことだ。僕はクラスメイトが彼女の机にそのような悪質な悪戯を施すのを止める事もせずに眺めていたわけだが、彼女は教室に入って来て自分の机の様子を目にするや、特に焦るでも泣き出すでも無く、真っ直ぐに机に向かい花瓶を処理し、どこかから濡れ雑巾を持って来て出来る限りそこに書き連ねられた自分に対する悪口を拭った。そこにはどのような怒りや嘆きの感情も見せない、超然とした態度があった。僕はそんな彼女の姿を見ながら、ほとんど無意識のうちに恋に落ちていた。そこには到底自分と同い年の13才か14才の少女とは思えない程の芯の強さがうかがえた。
そこから僕から何かアクションを起こしたり、特別彼女と仲良くなったりしたわけではない。引き続き彼女はいじめを受け続けいたが、決して彼女が弱みを見せることは無かった。そして僕らが中学校の3年生にあがる頃には自然にいじめ自体、無くなっていた。
あれから20年以上がたった今でも、そのときの彼女の凛とした佇まいや、それを傍観することしか出来なかった自分の不甲斐なさを、よく思い出す。