写真 | shingo722のブログ

shingo722のブログ

ブログの説明を入力します。

「写真」
 
 高校生のとき僕は写真部だった。あえて断るまでもないことだが、当時の風潮として、僕が写真部であるというだけでクラスメイト達は僕に“ねくら”だという印象を持った。そしてそれは事実だった。
 なぜ僕がその時期、無性に写真を撮るという行為に熱中していたのかは分からない。しかし、写真という瞬間を切り取る芸術に僕はわけもなく心の底から惹かれていた。確かにそこには写真を撮る側の人間の目線が息づいているように思えた。
 高校2年生も終わりに差し掛かったある日の放課後、僕がそろそろ帰ろうかと部室をあとにしたとき、夕陽に照らされたグラウンドで無心に高跳びの練習をするクラスメイトの女の子が目に入った。僕が特別、普段からその子を意識していたわけではない。彼女はどちらかと言うと地味な印象でクラスでも目立たず、そういう意味では僕たちは似たもの同士かも知れなかった。
 しかしそのとき、僕が目にした彼女は間違いなく、青春を燃やしながら無心にバーを越えようとするその行為の中で、普段とは別人のように輝いていた。
 気がつくと僕はカメラを構えていた。そして僕はその時を待った。彼女は何度もバーを越えようと挑戦してはもう少しのところで越えられずにいた。しかし彼女は諦めなかった。これでもう一体何度目の挑戦だろうというとき、その瞬間は訪れた。彼女が力みの無い綺麗なフォームで助走をつけ、弾けるような脚のバネで踏み切り、その身体が美しいアーチを描きバーを越えようとしたそのとき、夕陽が鮮やかに彼女とその空間を照らし出した。たった一枚、僕はここしか無いというタイミングでシャッターを切ることが出来た。現像を待つまでもない、完璧な瞬間を切り取った写真だと思えた。
 不思議なことにそれ以来、僕は写真というものに綺麗に未練が無くなってしまった。僕が部活を辞めると、元々部員の少なかった写真部は自然に解体してしまった。
 あれから十数年が経ち、今ではたまにカメラを持ち出して風景の写真などを撮る事もある。しかし、僕には分かっていた。あの放課後のグラウンドで撮った、少女の青春と夕陽が真っ赤に燃えるようなあの一枚を超えるような写真を撮ることは、二度とないだろうということが。