「CD」
「はいこれ、あなたがこの前誕生日にくれたCD」
そう言って彼女はテーブルの上に僕が渡した時のままのラッピングをかけられたCDを置いた。あれから1ヶ月以上が経つが、彼女は一度も封を開けなかったのだろうか?そんな疑問が頭をよぎったが口には出さなかった。自分でも何を恐れていたのかはわからない。
「いいのに」
僕は何でも無さそうに言った。僕は限定盤のそのCDを手に入れるにあたって、相当苦労したのだが、それもこれも全て無駄になってしまったわけだ。
「あなたの思い出をなるべく残しておきたくないの」
「そう」
それが僕との未練を断ち切るためなのか、あるいはただ単に昔の恋人との思い出の品物など見たくも無いという主義から来るものなのか判別がつかなかったが、やはり僕はあえてそれを口に出して聞いたりはしなかった。
「そろそろ行かなくちゃ。お昼からの講義があるの」
「わかった」
僕がコーヒー代の伝票を取ろうとすると、彼女は黙って自分の分のコーヒー代をテーブルの上に置いた。
「お友達に奢らせるわけには行かないわ」
彼女はそう言ってにっこり微笑むと足早に講義へと向かって行った。僕は感情のやり場のないまましばらく大学のキャンパスをあてもなく歩き続けた。広場の芝生の上では男女のグループがバドミントンをしており、ベンチには何組かのカップルが何かを語り合ったり、あるいはただ黙って恋人同士の時を過ごしていた。僕は無性に哀しくなってキャンパスを出ると、近所のバーに寄ってウイスキー・ソーダを何杯か飲み、電車に乗って家に帰った。周りの全ての音がやけに耳障りだった。自分の部屋に着いてベッドに倒れ込むと僕は目を閉じた。早く眠りたかったが、なかなか眠気は訪れてはくれなかった。