「小人」
「もうすぐ全身動かなくなるよ」
小人たちは囁くような声で言った。もともとが小人の声はすごく小さいので、僕はかなり意識を集中しなければその声を聞き取ることは出来なかった。
「もうすぐ全身が動かなくなるよ。そうすればもう、アンタは何も考えなくて済むようになる。夢の国へ行けるというワケさ」
見ると僕の全身はガリバー旅行記に出てくる小人の国で捕われたガリバーのように、細いロープの様なもので至るところを磔にされていた。
「さぁ、あとはアンタの首から上だけだ。夢の国はもうすぐだよ」
そう小人に嗤い掛けられたとき、僕はぐっしょりと汗をかいて目を覚ました。僕は32歳の小説家志望で、塾講師のアルバイトをしながら日々を暮らしている。僕はベッドから起き上がり服を着替えて顔を洗った。しかし、朝食を食べている時も、昼間生徒の前で授業をしている時も、あの小人に言われたことが頭の片隅から離れなかった。
「もうすぐ全身動かなくなるよ」
その言葉はまるで呪いのように僕の全身をじりじりと締め付けた。年を追うごとに周囲の友人たちや両親の目を気にしてジワジワと身動きが取れなくなって来ている自分を、以前から感じていた。自分の才能の限界を感じ始めていたのかも知れない。しかし僕は自分自身に見切りをつけることが出来ずにいた。次の文学賞までには何か新しいものが書けるようになっているかも知れない。その次までには…。
夜、家に帰って軽い夕食をとり、熱いコーヒーの入ったポットとマグカップを手に机に向かう。ノートパソコンを開いて白紙の原稿用紙が映し出された画面を睨みつける。もう、小人の言葉は頭の片隅にも無い。あるのは己の意識と向かい合う覚悟だけである。さぁ、あとどれだけ僕は自分自身と闘い続けることが出来るだろう。さぁ。