猫と話せる男 | shingo722のブログ

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 「猫と話せる男」
 
 猫の言葉を話せる男の話を聞いたのは、ほんの偶然だった。いつも行くスーパーの帰り道で近所の主婦が話をしているのが聞こえて来たのだ。それで僕はその男にとても興味を持った。何と言っても僕は猫が大好きなのだ。それから僕は方々あらゆるツテを使ってとうとうその男の居場所を発見した。その男はごく小ぢんまりとしたアパートの一室に暮らしていた。
「あの、あなたが猫の言葉を話す事が出来るという人ですか?」
 僕は少し気恥ずかしい思いをしながら聞いてみた。
「ええ、ええ、いかにもそうですがな。まぁ、ゆっくりお座りなさいな」
 そう言ってその気の良さそうな初老の男は僕に座布団をすすめ、お茶を出してくれた。
「一体どうすればあなたのように猫の言葉が分かるようになるのですか?」
「簡単なことですよ。猫の話に真剣に耳を傾けること。ほれ、こちらの猫を撫でながら話をしてご覧なさい」
 にゃあと鳴いて1匹の猫がどこからともなくやって来て、僕の膝の上に跳び乗った。僕はその猫の頭を撫でたり耳の裏を掻いたりしてやりながら、猫の話に真剣に耳を傾けた。
「全く、子どもというのは残酷ですな。この前も石を投げられましてね…」
 そう言って猫は僕に背中のあたりにある小さな傷を見せてくれた。
「それはひどい事をするね…」
 何の気なしに僕は返事をして自分で驚いた。
「おや、あなたは実にスジがよろしい」
 初老の男がにこにこしながら言った。
 僕は家に帰ると真っ先に飼い猫のクロに声を掛けた。
「やあ、ただいま」
「遅いよご主人、お腹がペコペコだよ」
 クロは僕に寄ってきて舌なめずりしながら言った。
 翌日僕は上機嫌で出社すると同僚の女の子に声を掛けた。
「やぁ、おはよう」
 女の子は怪訝な顔で僕の方を見ると、再びパソコンに向き直った。そのとき課長が出社して来たので僕は元気よく、
「おはようございます」
 と挨拶した。課長は一瞬怪訝な顔をした後、顔をしかめて、
「仕事に戻りなさい」
 と言った。僕は訳の分からないまま仕事を続けていると、午前中のうちに課長から「今日はもう帰りなさい」と言われた。
 僕が呆然と街を歩いていると、前を歩いていた小さな女の子がハンカチを落とすのを見かけた。
「お嬢ちゃん、ハンカチを落としたよ」
僕は女の子に声を掛けた。
「はい、どうぞ。ほら向こうでお母さんが呼んでいるから早く行きなさい」
「おじさんどうしてニャアニャア言ってるの?」
女の子は不思議そうに僕を見ながらそう言った。
 僕は急いで猫と話せる男のアパートに向かったが、その部屋には表札がかかっておらず、長いこと人が住んでいる様子は無かった。事情を聞こうにも、僕はもう、人と話をすることが出来なかった。
 今では僕は、近所で猫と話をすることが出来る男としてちょっとした有名人になっている。残念ながら、人に猫と話す方法を教えることは出来ないけれど。