「ドア」
ドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
僕が応えると、しばらくして男が入って来た。僕は彼に椅子を勧めると淹れておいたコーヒーを出した。
「あなたはどうしてここへ?」
「ためしてみたくなったんです。可能性というものを」
「あなた自身の可能性ですか?」
「私自身の、そしてあなた自身の」
「僕の?」
「失礼、あなたと関わることで自分がどう変わる事が出来るのか、それを試してみたくなったんです」
「なるほど、ではどうぞゆっくりして行って下さい。上手くご期待に沿えると良いのですが」
彼は片手を挙げてニッコリと微笑んだ。それを見つけるのは自分の役割だとでも言うように。そして彼はしばらく僕の部屋に留まり、やがて出て行く。自分の求めるものを手に入れて。あるいは失望して。この部屋には入り口のドアと出口のドアがあり、どちらも一方通行になっている。一度出て行った者が、二度と帰ってくることはない。そして皆、いつかは出て行く。僕は出来る限り彼らをもてなし、いつかは見送る事になる。上手くご期待に沿えると良いのだが。