慰撫 | shingo722のブログ

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 「慰撫」
 
 終電ギリギリに滑り込むように乗り、何とか家に辿り着く。服を着替える余裕も無く敷きっぱなしの布団に倒れ込む。その繰り返しだ。僅かに家に帰るのが早ければ缶ビールを開け、明日の朝起きられるかどうかビクビクしながらそれを飲み、何もかもどうでも良くなって眠りにつく。その繰り返しだ。
 ある日家に帰ると(あるいはなんとか辿り着くと)珍しく妻が起きて待っていてくれた。
「どうしたの?明日も早いのに」
「それはあなたも同じでしょう?」
 妻は微笑んで言った。そして荷物を預かってくれ、着替えを手伝ってくれた。そういうひとつひとつの優しさがつらく、また僕を苛立たせた。
「早く寝た方がいい」
「どうしてそんな無理ばかりするの?」
「やるべきことをやっているだけだよ。現状から抜け出すためにね」
「だって身体を壊してしまったら元も子もないでしょう?」
「好きでやってることだから」
「そんなにつらそうな顔で?」
 僕はその言葉を無視して布団に潜り込んだ。身体は疲れ切っているはずなのに眠れる気配は無かった。妻の視線が背中に痛いほど感じられた。うつ伏せに潜り込んだ布団の上からそっと背中を撫でられる感触があった。
「私を頼るのは嫌?」
「…」
「こうやってそばに居られるのはつらい?嫌だったら離れるけれど」
「…嫌なんかじゃないよ」
「もっと私を頼って」
 彼女は優しく僕の背中を撫でながら言った。ひと撫でされるごとにこわばった身体から力が抜けていくのが感じられた。
「負担だなんて思わないで。私だって好きでやってることなんだから」