「カフェにて」
カウンターにいるのは店主の男一人だけのようだった。他に客の姿もない。昼過ぎとはいえ、カフェというのはこんなに暇なものなのだろうか?店主も見るからに冴えない中年男でおそらく家ではカミさんの尻に敷かれてるであろうタイプだった。そこで、俺はこの店に決めた。別にデカく稼ごうという気は無い。当座の逃亡資金さえ頂ければ大人しく帰るつもりでいた。俺はポケットの中の銃を確かめると、店主に向かってゆっくりと近づいて行った…が、そのとき店の奥から絶世の美女とも言うべき女がエプロンを付けながら現れた。
「いらっしゃい」
彼女は俺に愛想よく微笑むと、そのあと実に驚くべき言葉を口にした。
「ごめんなさい、あなた。子どもたちがグズったものだから、店に出るのが遅くなってしまったわ」
「困るじゃないか、忙しいのに人手がなくちゃ」
店主は熟読していた新聞を置きながら言った。こんな冴えない男になぜこんな美しい女が?俺は呆然とその光景を見守っていた。
「お客さん、コーヒーのおかわりは?」
美しい女房が俺に声を掛けてきた。
「ぼ、僕はその…ご馳走さまでした」
俺はポケットの中の小銭をロクに確かめずにレジに置くと、そそくさと店を出た。まったく、男の計画を邪魔するのはいつも女の存在なのだ。