「子犬」
冬の雨に濡れた犬は物哀しい。別に猫だって哀しいのかも知れないが、犬は人に従順な分だけ余計に僕の心に訴えるものがある。
小学生のとき、僕の家の近くの公園のグラウンドには仮設住宅が建ち並んでいた。神戸の震災後に建てられたものだったが、僕が高学年にあがる頃には住む人もなく(きちんとした家に引っ越せたなら良いのだが)、彼らが飼っていたというか、餌付けしていた猫たちが、もう与えられることの無くなった餌を求めて集まっていた。そこから少し離れたところに、その犬はいた。ダンボールに入れられて、お決まりの「可愛がってやって下さい」の張り紙と共に捨てられていた。僕は学校の行き帰りにその犬に会いに行き、余った給食のパンなどを与えていた。家では家族のアレルギーの関係で飼うことが出来なかったのだが、僕はその子犬をとても可愛がっていた。ある日僕が犬を見に行くと、どこか様子がおかしいことに気が付いた。元気がなく、小刻みに震えて咳をしていた。どうして良いか分からずいつものように食べ残したパンを与えて帰ったのだが、それからしばらくして、箱の中で冷たくなっているのを見付けた。抱えてみると僕はその固さ、冷たさに驚かないわけにはいかなかった。それはいつも僕に戯れていたときの柔らかな温もりとはかけ離れていた。死というものを身近に感じて、軽い恐怖とともに、それを感じたことへの罪悪感に襲われた。
それから20年以上経った今でも、僕は動物を飼う気にはなれないでいる。あのとき感じた感触を、今でもまだ覚えている。