「再会」
音楽は静かに響いていた。どこかのオーケストラが演奏する誰かの作曲したシンフォニー。その匿名性ゆえに(僕に知識がないだけなのだが)それは僕をどこか異国の知らない地に迷い込んだような不思議な気持ちにさせた。
「つまり、以前僕は君にあったことがあるということ?」
「ええ」
彼女は微笑んでいった。どこか、悪戯っぽく、挑戦的な笑みだった。
「それは具体的に、どこであったんだろう?」
「さあ、どこでしょう?」
彼女は言った。
「いつか、どこかでよ」
そう言われてみれば、確かに彼女の顔には見覚えがあるような気がした。しかし、いつどこで会ったかが思い出せない。まるで聞き覚えはあるのだが歌手の名前が思い出せない歌のように、僕の記憶の片隅をノックする音だけが聞こえる。
「思い出してみて」
僕は喫茶店のテーブル越しに顔女の顔を見た。だめだ、どうしても思い出せない。
彼女は淡い笑みを浮かべたまま、いつまでも僕の顔を見つめていた。まるでとっておきの悪戯に誰かが引っ掛かるのを見守る悪戯っ子のように、どこか無垢な目で。