「読書灯」
目を覚ますとベッドの傍の読書灯が点いていた。妻が書店で買って来たばかりの新刊の小説を読んでいる。
「眠れないの?」
枕元の時計を見ると時刻はそろそろ2時を回ろうとしていた。
「ええ。ごめんなさい、眩しかったかしら?」
「いや、たまたま目が覚めただけだよ」
そう言って僕はごろりと寝返りをうった。
しかし、それからも数日間、僕が夜中に目を覚ますたびに読書灯が灯り、妻は本を読んでいた。僕は明かりのせいで目を覚ましたと思われないよう、眠ったふりを続けていたが、だんだん妻があまり寝ていないのではないかと心配になってきた。それで僕は食事のときにさりげなく、最近うまく眠れているか妻に聞いてみた。
「ええ、大丈夫よ」
そう答えたものの、妻の顔はどこか、心ここにあらずといった感じだった。
それからも妻は夜中に次々と小説を読破しているようだった。もともと本を読むことは好きな方だったとは思うのだが、それでもここ最近、何が彼女をここまで小説の世界にのめり込ませているのかがわからなかった。昼間の彼女は普段通りにはしていたものの、やはり少し意識がここを離れて遠いどこかへ行ってしまっているように思うことが何度かあった。結婚生活に何か不満があるのだろうか?さすがに考えすぎかとは思ったが、部屋の隅に積み上がっていく新刊を見るたびに、僕は彼女がここではないどこかを求めているような気がして来た。
今日も彼女は読書灯を頼りに深夜の読書を続けている。ちらりと見えたその横顔は完全に物語に没入しているようだった。僕はそこに、何か普段の僕に見せることのない、知らない彼女の一面を見たような気がした。