「存在」
よく人から存在を忘れられてしまう事があった。小学生のときに何か団体行動を取るとき、僕の存在を忘れていたせいで、
「おい、誰か1人足りないぞ」
ということになり、ようやく僕がいないことに気付くということもしょっちゅうだった。また、母親と買い物に行って、母親が買い物に夢中になるあまり、僕の存在を忘れたまま帰ろうとしたことさえあった。自分の親でさえこうなのだから、他人が僕のことを忘れたって仕方のない事のように思えた。
そして今、僕は自分のマンションのエレベーターの中に閉じ込められている。何度非常ボタンを押しても反応が無い。どうやら全ての機能に不具合が生じているらしい。幸い、空腹も用を足したいという事も無かった。仕方がない、他の住人が気がつくまで気長に待とう。僕はエレベーターの壁に持たれたまま、ズルズルと床に座り込んだ。まるで永遠の様に感じられるほど長い時間が過ぎた。どうやら、ここだけ時間の進み具合が違うみたいだ。外の世界ではせかせかと人々が働き、せわしなく時間が過ぎていくというのに、このエレベーターの中では時間が静止しているようだった。おそらく、世界中の人々は僕の存在を忘れてしまっている事だろう。やがてジワジワとこの空間の酸素が減っていき、僕は誰にも気付かれぬまま、死んでいくような気がした。