「扉の向こう」
僕は扉の前に立っていた。扉の向こうには夜空が広がっていた。それはどう考えても妙な事だった。なぜなら僕がさっきこの屋敷に入ったとき、外はまだ明るかったし、第一屋敷の作りから考えて、この扉は屋敷の中の部屋に繋がっていなければならないのだ。
「その扉の向こうの景色はあなたの過去よ」
彼女は言った。
「僕の過去?」
「ええ。あなたが大切に想っている過去。人生に大きな影響を及ぼしている過去。私とあなたが扉の奥に見ている景色はそれぞれに違うのよ」
「それより、ここは一体どこなんだ?僕はなぜこの屋敷に連れてこられたんだ?だって僕はさっきまで…」
屋敷に入るまでの記憶がスッポリと抜けてどうしても思い出せなかった。
「今、あなたは自分の過去に向き合うときなのよ」
彼女は言った。
「さぁ、行ってらっしゃい。あなたの過去へ。かけがえのない記憶の中へ。あなたが自身の過去と向き合ったとき、全ての記憶を思い出すわ」
僕は扉の向こうを改めて見た。どこまでも続く星空と果てしない草原。不思議と怖くはなかった。僕は彼女に言われるまま、扉の奥へと、一歩を踏み出した。