ルーティン | shingo722のブログ

shingo722のブログ

ブログの説明を入力します。

 「ルーティン」
 
 頭の中で音がしている。ピッ、ピピピッ、ピピピピッ…。それが目覚ましの音であると認識するまで数十秒かかる。頭の芯がウイスキーのせいで鈍くなっている。
 家の中は静まり返っている。以前は私が起きる頃にはキッチンで妻が料理をする音や匂いが漂っていたものだが、この静寂によって妻は出ていったのだなと改めて認識させられる。
 私の隣では女が寝息を立てている。バーで知り合っただけの、ほとんど見ず知らずの女だ。やがて女が起き出してくると、気だるそうに下着やらストッキングやらを身につけながら、頭が痛いだの、昨日ちゃんとアレ付けてくれた、だのと聞いてくる。その繰り返しだ。
 その様な一連の私のルーティンの中では珍しく、一緒に朝食が食べたいと言ってきたのは彼女だった。私は冷蔵庫の中の出来合いのものとサラダとスープを作りトーストを焼いた。私は久しぶりに朝食を誰かと向かい合わせに食べた。
「どうして奥さんは出ていっちゃったの?」
「わからない。でも多分原因は僕の方にあるんだろう」
「かわいそうに」
「かわいそう?」
「そんな風に思ってしまうことがよ」
「そんなものかな」
「いつもこうやって誰かと寝たあと、朝ご飯を一緒に食べる?」
「いや、初めてかも知れないな」
「どうして?」
「そんな気持ちになれないんだ」
「それはあなたの中で何かが欠落しているのかも知れないわね」
 彼女はトーストの切れ端で皿のスープを拭いながら言った。
「その欠落した何かのせいで奥さんは出ていっちゃったし、あなたはそれを埋めるためにこうやって女の子と寝続けるのかも知れない」
 僕は深い虚無を覗き込むように彼女の目を見た。
「ねぇ、そんなに真剣に考え込まないで。ちょっと思ったことを言ってみただけなんだから」
 僕はもはや彼女を見てはいなかった。彼女の座っているあたりの空間をぼんやりと眺めているだけだった。まるでそこに、欠落している僕の何かを探し求めるように。