「麻痺」
まるで麻酔をかけられた様に感覚が鈍く、麻痺していた。その痺れにも似た無感覚の中で僕の感情は弾力を失っていた。僕は彼女を失ったのだ。
「まるであなたといると袋小路の中にいるみたいなの」
ある小雨の降る朝に彼女はそう言った。
「まるで堂々巡りを繰り返しているみたいに、どこにも行けなくなった様な気がするの」
それから1週間もしないうちに彼女は出て行った。僕の知らない住所から彼女の部分が書き込まれた離婚届が送られてきただけだ。
もはや痛みは感じなかった。もしかすると、初めから終わりに向かって歩いていたのかも知れない。不器用に、おぼつかない足取りで。我々のささやかな努力など、巨大な運命の潮流の前では、さざなみの様なものだったのだろう。
彼女の居なくなった部屋の中で、僕は圧倒的な無感覚の中にいた。そして進むべき道に対する方向感覚さえ、やがて失おうとしていた。