「母と娘」
「母の葬式があったの」
彼女は簡潔に言った。ただしも、けれども無い。
「父が亡くなってから一月も経たないうちだったわ。まるで後を追うみたいにね」
彼女は少し遠い目をして言った。
「お母さんのこと、あまり好きじゃなかったの?」
「虐待されていたからね」
彼女の表情からはどの様な感情も読み取れなかった。
「母が再婚してからのことよ。新しい父にしたところでそんなに悪い人では無かったんだけれど、母は私がいる事に対して引け目の様なものを感じていたみたい。まぁ、その気持ちは分からなくもないけれど」
「今でもお母さんのことを恨んでいる?」
「分からないわ。母も必死だったんだと思う。前の父には捨てられたようなものだったから、余計に新しい父に執着していたんだと思うの。まぁ、捨てられたのは私も同じなんだけれど」
彼女は自嘲気味に笑った。
「僕は君とずっと一緒にいるよ」
「ありがとう」
そう言いつつ、彼女はまた別のことを考えている様だった。
「でも可哀想なお母さん。新しい父の顔色ばかり気にして、最後は身をすり減らすようにして死んでしまったわ」
彼女はまるで他人事の様に言った。そのうつろな目の奥に、母と父、そして新しい父との間の様々な葛藤が見て取れたが、僕にはその全てを推し量ることなど、到底出来なかった。