「友人の家」
小学校時代を通して、彼は僕にとってほとんど唯一と言っていい友達だった。何をするにも一緒だったし、よく彼の家にも遊びに行かせて貰った。彼の両親もとても僕に良くしてくれたし、彼ら自身、本当に仲の良い家族だった。
僕が小学校の5年生ぐらいの時だったと思う。ホームルームの時間に彼の母親が亡くなったことを教師から告げられた。その日から1週間、彼は学校を休んだ。そして1週間後に彼がまた学校に来るようになってからは、みんな彼に気遣いの言葉を掛けたり、いたわりの態度を示した。しかし、やがてクラスのみんなと彼との間にはよそよそしい空気が流れるようになった。元々彼は周りに気を遣われることを好まなかったし、クラスメイトとしてもまだそんなに多くの掛けてやる言葉を持つ年齢では無かったのだ。明るく活発だった彼は次第に塞ぎ込むようになっていった。
しかし僕は変わらず彼の友人であり続けた。僕にしても彼以外の友人はほとんどいないわけで、彼が再び学校に来るようになったことをとても嬉しく思った。
ある日、久しぶりに彼の家に遊びに行った。家の中の様子はそれほど変わってはいなかった。僕としては彼の母親が亡くなったことで家の中が荒れ果てているのではないかと内心少し心配していたのだ。彼が1階のキッチンでお菓子などを用意してくれている間、僕は2階の彼の部屋に行って待つことにした。そこで何気なく、彼の両親が寝室として使っていた部屋が気になった。僕は彼が相変わらずキッチンにいることを確かめながら、こっそりと部屋の中に入った。
そこは他の部屋よりもさらに綺麗に整えられていた。そんな部屋の様子を見渡しながら、ベッドに視線を移したとき、僕はドキリとした。誰かがそこに寝ているのだ。僕は一瞬、彼の母親の遺体をそのまま残してあるのでは無いかと思い冷や汗が出た。しかし、よく見るとそれは人では無かった。デパートなどでよく見るマネキンだった。マネキンが部屋のベッドで寝ているのだ。それは奇妙な光景だった。そしてマネキンには、おそらく彼の母親の髪型に近いカツラが被せられ、うっすらと化粧が施してあった。それはおそらく彼の父親のやったことだった。彼らは3人暮らしだったが、僕の友人にはまだそんな手間のかかることは出来そうに無かった。
僕はそっと部屋を出ると、何事も無かったかのように彼と遊んで過ごした。しかし、その間も彼の父親の顔が僕の頭を離れなかった。優しそうな、慈しむような目で妻を見る、その目が。