「午後のひととき」
人生とはちぎり絵のようなものである。さまざまな色や形にちぎられた紙片が複雑に組み合わさって、やがて鮮やかな景色を描き出す。
僕が彼女と再会したのは全くの偶然だった。僕はクライアントとの待ち合わせでホテルの1階にある喫茶店に来ていた。向こうが所用で30分ほど遅れるという連絡を受け、しばらく手持ち無沙汰に時間を潰していた。彼女が現れたのはそんな折だった。やはり彼女も仕事絡みでこの喫茶店を利用することになったそうだ。彼女が喫茶店に入ってきたとき、僕は驚きに打たれるとともに、彼女に付随する様々な昔の想い出が蘇り、胸が震えた。
彼女と付き合っていたのは僕が大学2回生のとき、彼女は1つ歳下で同じサークルの先輩後輩の関係だった。奥手な僕にとっては初めて出来た彼女であり、彼女にとって僕は2人か3人目の彼氏だったと言う。結局彼女との仲は僕が就職を機に東京に出ることになり自然消滅してしまったが、それでも大学生活を通して彼女の存在は彩りと張り合い、そしてその年代の男女の間特有のせつなさを残していった。
「元気にやってる?」
「ええ」
「結婚は?」
「彼氏がいるわ」
「そう」
「あなたはどうなの?」
「いや、少し前に別れたところだよ。君は順調?」
「まあ、それなりにね。でもこの話はもうよしましょう」
それから僕たちは当たり障りの無い世間話をしてそれぞれの仕事に取り掛かった。仕事中、僕はなるべく彼女のことを頭から振り払う努力をしなければならなかった。
彼女の方が早く仕事を済ませたらしく、店を先に出た。喫茶店を出る直前、彼女と目があった。さようなら、彼女の目がそう言っていた。彼女とこの先2度と会うことはないだろう、僕にはなぜかはっきりとそう感じられた。
何気ない午後のひとときが、また一つ僕の人生の景色を形作っていく。さざなみのような、心の震えを残して。